「投資詐欺の容疑で国際手配され、タイで拘束された渡部聡子容疑者は、日本に強制送還する機内で逮捕され、東京の警察署に身柄を移されました。
被害総額は50万円から10億円以上にのぼると言われています」護送車に乗った女は車を取り囲んだ報道陣から声をかけられると、「私も被害者の一人です」と言って艶然と微笑んだ。
発端
「騙された人間が悪いと言われたら、そりゃあそうだ。
でも不思議なことに、彼女に騙されたって、今でも思えないんだ。」
水商売をしながら、アメリカ製のサプリメントを扱うネットワークビジネスを手がける渡部聡子は、ある日喫茶店で、上品な和装の女性に声をかけられる。聡子の営業トークを耳にし、商品が気になったと、ハンドバッグから取り出した現金20万円でポンとサプリメント15個を買い上げる彼女に驚く聡子。伊藤と名乗ったその女性は、数カ月後、聡子が勤めるクラブに男を連れてやってきた。男の名は平澤と言い、国境を超えたビジネスを展開しているという。次から次に展開されるスケールの大きな話を夢中で聞くうちに、平澤のもつ魅力と熱意に圧倒された聡子は、彼が手がける途上国支援事業に関わることになった。持ち前のチャーミングさと巧みなセールストークで人びとからお金を集めるのが聡子の役目だ。集めたお金を平澤が待つホテルの部屋に持参した聡子は、平澤と関係をもつ。
エステやネイルサロンに通い、高級ブランドで買い物をし、ホストクラブで遊び、外車を乗り回し・・・・・・「支援金」の名目でどんどん集まるお金を、湯水のように使う聡子。
ある会合で佐々木という裕福な男性と知り合った聡子は、彼のお金で豪邸を手に入れ、老人ホームに入所していた母親を呼び寄せる。佐々木の後援会というかたちで自宅に集まった人びとに向けて、誇らしげに母を紹介する聡子。「娘がこんなに立派になりまして。皆さんのおかげです、ありがとうございます」と照れながら挨拶する聡子の母の声も、嬉しそうだ。
43年前。母と聡子は、威圧的な父親におびえながら暮らしていた。昼間から女をホテルに連れ込むような不実な父親でありながら、家では暴君のように振る舞い、母親を召使いのように扱う父を聡子は疎ましく感じていた。
支援者の一人である人妻と平澤が密会を重ねていることを知った聡子は、平澤との関係を絶ちタイへ旅立つ。ある日、街なかで男たちのケンカに出くわした聡子は、お金を盗んだと疑いをかけられた青年をかばい食事に誘う。ポルシェと名乗る青年に、「私はエリカ」と自己紹介する聡子。バイクで街を走ったり、プールで泳いだり。デートを繰り返すうちに心が通い合い、ふたりは結ばれた。「また会える?」ポルシェの言葉に微笑む聡子。
帰国後、自宅でマッサージを受けていた聡子のもとに、支援者の一人、玉木が血相を変えて乗り込んできた。預けたお金が半年以上も返ってこないと憤る玉木を冷たくあしらう聡子に、泣きそうな顔で「俺は死んでも許さんからな!」と捨て台詞を吐いて玉木は立ち去る。
そんなある日、佐々木が息をひきとった。聡子のために豪邸に引っ越してから半年後のことだった。
監禁
聡子の自宅で、20名ほどの男女が彼女を囲んでいる。集まったのは、聡子にお金を預けたのに、いつまで経っても配当金がもらえないことに業を煮やした支援者たちだ。泣き叫ぶように聡子に怒りをぶつける者や、「金を返せぇ!」と大声をあげて気を失う者、支援のために借りたお金が返せず命の危険を感じおびえる者。先日やってきた玉木はその後自宅で自殺したという。
「あなたが憎い!」という玉木の妻の言葉に、怒りに満ちた眼差しが一斉に聡子に向けられるが、聡子は「やだぁ、みんな。なにそんな顔して見てんの? 私なんにも悪いことしてないじゃん」と言い放つ。「狂ってる・・・・・・。」支援者たちは聡子に体当たりするようにして出て行った。
支援者が去ると同時に、金庫を満たしていたお金も尽き、家政婦も去ってしまった。電気を止められ、ろうそくの灯りがともる室内で、聡子はふと伊藤が自分に語った言葉を思い出す。
「お金は人間よりはるかに頼りになります。頼りにならないのは人間の心。」
母と聡子だけが残った家。庭を眺めながらぼんやりとタバコを吸う聡子の後ろで、母親がマニキュアを塗っている。「お母さん、一緒に死のうか。」童謡の「赤とんぼ」を歌いだした母親にあわせて口ずさむ聡子。
その後、高級車を手放し、母親を老人ホームに預けた聡子は、ふたたびタイへと向かう。
逃亡
タイの豪華な一軒家で激しく愛し合う聡子とポルシェ。だが、甘い時間は長くは続かなかった。
買い物に出かけ、途中ガソリンスタンドに立ち寄った聡子は、背後から「サトコ?」と声をかけられる。
振り返った聡子が目にしたのは現地の警察官だったーー。
このような賞を海外からいただけるなんて光栄です。
自分を支えてくださったスタッフ、キャストの皆様に感謝しております。
そして、樹木希林さんにも大感謝です。浅田美代子